本調査で行った基礎的な検討の一つに、日本語版統御感尺度の心理尺度特性の確認作業がありました。
統御感(sense of mastery: SOM)とは、社会学者Leonard I. Pearlinによって提唱されたストレスプロセスにおいてストレッサーの緩和効果を持つ対処資源としての自己概念に関する感覚を指します。Pearlinによると統御感とは自己の信念のことで、その人の生活・人生に影響を及ぼしている状況をコントロールできるという確信であるとされています。その人の統御感を測定する統御感尺度(sense of mastery scale: SOMS)はPearlinらにより開発されて以降、ストレッサーによる影響を緩和する能力を持つ防御資源であることが繰り返し実証されてきています。また、社会的に重要とされる目標達成によって発達するとされ、社会経済的地位と大きく関連することが分かっています。
日本国内において健康に関連する自己コントロール概念は多数開発されています。たとえば一般的な状況に対するコントロール感を意味するローカスオブコントロールとは異なり、この統御感はその人の生活・人生に対して"重大な"負荷・刺激を与える、限定された状況に対するコントロール概念になっています。
開発から30年以上経過し、欧米を中心に多くの先行研究が見られていますが、本調査を計画している2013年末に開発者のPealin氏に問い合わせたところ日本語版は今のところ聞いたことがないと回答があり、項目のご提示、バックトランスレーションのチェックなど日本語訳の作成に協力いただき、開発に至りました。
本調査により日本語版について一定の信頼性と妥当性が確認できましたので、ここに尺度内容をお示しします。
なお、信頼性妥当性に関しては以下の論文にまとめ公表していますので、使用の際は引用をお願いします。
Taisuke Togari, Yuki Yonekura. A Japanese version of the Pearlin and Schooler’s Sense of Mastery Scale. Springer Plus 2015; 4(1):399.